「ライブ・合理的選択論 投票行動のパラドックスから考える」小田中直樹

  • 2017.10.23
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【感想】
「どうして僕らは選挙に行かなきゃいけないのか」という素朴な疑問に対して、ラノベ風なやりとりと、その後の選挙に関する政治学的研究の変遷を交えて説明した本。投票行動に関するメリットとコストを計算したダウンズ・モデルから話を始めて、そのパラドクスも説明。その後も様々な政治学的研究を紹介している。そもそも選挙に関しての統計学的なアプローチの本を読んでいなかったので、そんな手法があるのかという点で参考になったが、同時に、まだまだ理論的限界があるなということも実感した。手っ取り早く理論のみ勉強したいという方は、各章の前半のラノベ部分(少し分量が多い)は読み飛ばした方が良いかもしれない。

【要約】
合理的選択論

  • 人は制約条件のもとで私的なメリットを最大にするべく合理的に行動するという理論。これは、日々の生活の中で直面する選択において働いているメカニズムであり、選挙でも当てはまる。全てはこの「合理的選択論」を起点として理論展開が始まる。

中位投票者仮説

  • 2つの政党の政策は、中位投票者(投票者の選好分布の真ん中に位置する投票者。例えば、「大きな政府か、小さな政府か」で争っている時に両主張の真ん中を支持する投票者)が支持する政策に収斂する。選挙では勝たなければ意味がないため、自分の政党が主張するマニフェストを支持するラディカルな有権者だけを取り込むのでは不十分。なので、各政党とも投票数を確保するためマニフェストを中道寄りに修正していく傾向があるとのこと
  • 実際に、二大政党制あるいはそれに近い政党制度の国では、しばしば政党が中道化してゆくという現象が見られているので、ある程度この仮説は当てはまる。
  • 批判:二大政党制において両党が中道化していくものになると、ラディカルな有権者が離反するだけでなく、中位投票者に近い有権者までもが棄権し始める。




ダウンズ・モデル

  • 有権者は投票のメリットと棄権のメリットを計算して比較し、投票のメリットが大きければ投票するという理論。合理的選択論を選挙の場合に当てはめた理論であり、投票コストを理論的に計算した点が新しい
  • 投票コスト=情報コスト(誰に、どの政党に投票すれば自分に便益があるかに関する情報を収集するコスト)+機会コスト(投票所に行き、投票用紙に記入し、自宅に戻るコスト)
  • (投票の公共財としての側面)投票行動はうまくやればタダ乗りが可能。候補者Xが圧倒的に強ければ、一人が棄権したところで大勢に影響はないだろう。投票行動によって実現されるべき政策が公共財的な政策を持っているため、棄権した場合でも満足の増加分を考えることができる。




ダウンズ・モデルで説明できる部分

    情報コストが下がるので投票率が上がる例

  • 選挙キャンペーンが大々的に行われると、投票率が上がる=候補者に関する情報を見聞きする機会が増えるため情報コストが下がる
  • 高学歴者や高齢者では投票率が高い=政治に関する情報収集を行なっている
    自分が決定投票権(Casting vote)を保つ可能性が上がるので、投票率が上がる例

  • 接戦が予想されると、投票率が上がる
    ダウンズ・モデルのパラドックス

      (パラドックス1)有権者が多すぎると、自分1人がCasting voteを握る可能性が少なすぎるため、投票の便益が小さすぎる→みんな投票に行かない

      (パラドックス2)パラドックス1に基づいて皆が棄権を選択すると、自分のCasting vote rateが上昇するため、投票に行く。ただし、他の皆も同じことを考えて投票に走るかもしれず、そうするとCasting vote rateは0に下がるため、いつまでたっても投票か棄権かの意思決定はできなくなる。




そもそも投票行動には、投票結果の分布が知られていないというタイプの不確定性がある
2種類の不確定性。投票行動の場合は後者のタイプ
(1)リスク:結果の分布は知られている→投票のメリットを計算できる
(2)不確実性:結果の分布が知られていない。誰がどちらに投票するかも、そもそも何人の有権者が投票に行くかも、全くわからない
→選挙の結果について事前に計算できないため、投票の純粋なメリットは計算できず、ダウンズモデルでは投票か危険かを決定できない。そこで考えられたのが「最大後悔最小化基準」

最大後悔最小化基準

  • 人は、最大の後悔を最小化するような行動を選択するという理論。後悔を「選択の前に状況を正しく理解していれば獲得し得たものと、選択によって実際に獲得したものの差額」と定義
  • (批判)有権者は完全ではないが、ある程度の選挙結果に関する事前情報は持っているのではないか?


ゲーム理論
ダウンズモデルの第2のパラドックスを解決しようと試みた際に持ち出された理論。投票行動において、僕らは、相手の出方を見ながら、自分の私的なメリットを最大にする選択肢を選び取る。相手も同様である。その場合にどのように決着がつくのかを、投票行動を一連のゲームとして論じている。

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