「医療4.0」で印象に残ったフレーズをピックアップ

前回は、『医療4.0 ~未来を描く30人の医師による2030年への展望~』は、コンテンツ作成・マーケティング手法も秀逸だったのブログで、出版までの経緯やマーケティングの素晴らしかった点を記載して、内容に関しては述べずに終わっていましたので、今回は内容について触れたいと思います(ネタバレ含む)




30人の医師のインタビューの部分はどれも示唆に富むものでした。その中でも個人的に、新たな気づきを得られたという点で印象深かった内容を紹介します。すでに、現在の取り組みを知っている、知り合いの医師の方々もたくさんいらしたので、自分がすでに知っていた内容に関しては、ここでは記載をしていません。

あと、自分の気質上、テクノロジーに目を向けがちなので、テクノロジーを詳しく記載している記事をより多く取り上げている点もご了承くださいm(_ _)m

五十嵐 健佑先生「医療において変わりゆくものと変わらないもの」

2030年前後は、「判断責任ミスマッチ」問題に直面している時期だと予測しています。今後、AIが判断能力で人間を超えることは確実で、判断は AI、責任は人間という判断全体と責任主体が不一致な状態が訪れ、判断ミスの責任の所在はどうなるのかといった議論が沸き起こる。さらに長期的には、判断も責任もAIとなりミスマッチ問題は解消される

→昨今のAIにまつわる診断能力や責任の問題を「判断責任ミスマッチ」という的確なワンフレーズで表現している点が印象深かったです。さらには、そのミスマッチも解消されてAIが責任まで長期的には担うだろうという予測も、なるほどあり得るのかもしれないと思いました。判断、責任までAIが担った段階で、人間に残された価値は何なのだろう?やはり皆さんが指摘されていたように、患者とのコミュニケーションや安心感の提供なのだろうか?



石井 洋介先生「人工知能に代替されない医師の価値はコミュニケーション力にあり」

健康意識が低い人達にも行動変容を起こすには、真っ当な情報発信のアプローチだけではなく、例えば「排便報告をすると敵を倒せる」といったゲームのような日頃親しんでいるコンテンツの中に情報溶け込ませて発信する必要があり。行動変容させる軸をずらすことが重要

→行動変容として、ゲーミフィケーションという、保守派からすると邪道と捉えられそうなアプローチで取り組んでいる点が面白かったです。従来のリスクコミュニケーションによるアプローチ(このまま悪い食生活を続けていると、将来重篤な合併症を引き起こしますよという危機意識を煽るようなアプローチ)は、健康意識が高い人にのみ有効であって、そうでない人達にはなかなか難しいので、ゲーミフィケーションのような、健康のために行動変容しているという気もおきないほどの自然なアプローチが一つの解なのかもしれないと思いました。人は、他人から言われても(内容が合理的であるか否かに関わらず)、変わらないですし。



伊藤 涼先生「一人一人の医療の自立のために必要なブロックチェーンという技術」

ブロックチェーンの技術を用いることで、今までの患者の個人情報が病院の中央集権的管理であった状態から、複合化の権限を患者本人のみに付与されるので、ハッキングによる個人情報漏えいのリスクは限りなく低くなる

→ブロックチェーンの医療分野における応用に関して、簡潔にかつ分かりやすく説明されていました。その後、飲み会でお会いする機会があり、話を伺ったところ「元々は1万字程度でより詳細にブロックチェーンの医療分野での利活用について書いていたが、難解だったのでかなり削った」とのことでした。ぜひ、1万字バージョンも拝読したいです!医療分野のブロックチェーンで本を出版してください。

小橋 英長先生「スマートコンタクトレンズ、アプリ・・・新たな技術を理解し医療に貢献したい」

東アジアを中心としてここ50年で近視の有病率は急増しており、 2050年には全世界の近視人口は47億5800万人にも上るという試算もあります。特に、そのうち世界人口の約1割にあたる9億人が強度近視になる予測されていて、強度近視は、緑内障・網膜剥離・白内障の合併症を生じる疾患であり決して軽視できない。実際に中国では、近視研究に国家予算を投資し、近視による肝疾患を予防する取り組みが始まっています

→近視が、有病率の増加・将来の合併症の量と質の2つの面で、国家プロジェクトになるほど問題になっているとは、露知らず、ビックリしました。その後、飲み会で「眼科は医療分野のテクノロジーという点でcutting edgeに位置する」とおっしゃっていたのが印象的でした。確かに、体表面に位置する感覚器官なので、デバイスが入り込みやすく、テクノロジーの最先端は眼科からくるかもしれないと思いました。眼科周りの最新論文をチェックして、次に来そうな技術を見ておくのも重要かもしれないなと感じました。


佐竹 晃太先生「薬、手術に加えて「アプリ」を処方する未来の医療」

米WellDoc社の「糖尿病治療アプリ」を使用した人は、使用していない人に比べてHbA1cが1.2も下がり、これは薬代で治療した場合の平均低下0.9を上回ったという論文が発表された

→アプリは治療にある程度効果があるとは思っていましたが、内服薬よりも効果が高いほどであるとは思っていなかったため、衝撃を受けた。

また、治療の場合、医師の診療時間は限られていて、患者さんは診察以外の時間(数ヶ月)が職場や自宅などで自分との戦いとなってしまうため、禁煙治療や生活習慣病と言った慢性疾患の場合は、そういった空白時間のサポートとしてアプリが有効に活用しうると述べており、全くその通りだなと思いました。リソース上、人だと手が届かない日常時間の領域にも、アプリだと治療介入できる。そして、患者さんにとっては診療以外の時間の方が診療時間と比較して圧倒的に長いので、そこにアプリをうまく融合させられれば、もっと助かる人は増えると感じました。

二宮 秀樹先生「これからの医療を支える「地味なデータの整備」」

画像の自動読影で最も大切なのは、画像数とラベリング。日本初の医療画像自動読影が世界に対抗するためには
1)ピロリ菌は胃がんなどの、民族上の疾患特異性のあるデータ数を蓄積して解析
→画像数での勝負になるが、日本特有の画像に絞ることで、海外では画像数を蓄積できず、勝利できる可能性あり

2)画像のみにこだわらず、総合的な質の高いデータを一緒にモデルに組み込む
例えば胎児心拍数モニタリングの場合、母親の既往歴、 妊娠分娩回数、子宮口の状態といった複合的な要素を一緒に組み込んだアルゴリズムを蓄積する
→単に画像数のみでの勝負では、勝ち目がない場合には、有効な戦略だと思われる。

「構造化されたデータ」が自動で蓄積される体制を作ることの重要性と、AI画像診断において、世界と比較しての日本の差別化戦略について、簡潔にまとめられていて勉強になりました。

原 正彦先生「セルフメディケーションの時代を意識して専門性を身につける」

薬の効果はRCTによるますデータの薬の効果を推定するのが一般的ですが、患者が実際に知りたい情報は「その薬は自分に効くのか」であり、私達は、患者個人の繰り返しデータを用いて薬の効果を推定するアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムを使うことで、将来的にはRCTの結果のみに頼ることなく、個人に対する薬剤の効果を「個別」的に予測し、最適な治療を提案できるようになるのではないかと期待しています

→この内容が、自分の中では、この本で1番印象に残りました。確かに、患者さんからすれば、「今までの大規模試験の結果からは、平均余命は5年です」などと言われたとしても「それは平均値の話であって、私の場合はどうなんですか?」と問いただしたくなります。 この個別化の推定は難しいだろう、もう10年ほど先の話だろうと思っていたのですが、すでにそのアルゴリズムを開発されたとのことで、お会いする機会があれば、是非概略だけでも聞いてみたいと思います。

森 維久郎先生「「正しい情報」だけでは変わらない人の行動を変える」

人間は2018年の現在でも、 発信されている内容よりも誰か発信しているかで判断しています。「AIが言うなら間違いない」と直感的に思えるようになるまではまだまだ時間がかかると思います。個人的には、物心ついた頃からAIが生活に溶け込んだ世界で生活できた「AIネイティブ世代」が成人し始める2040年頃にはそんな考え方が一般的になってくるかもしれません。

→確かに、将来ニュースで「AIネイティブ世代の子供達は….」なんて話題が持ちきりになってそう(今のデジタルネイティブ世代のように)!。今の子供たちは2,3歳からタブレットで遊び始めて、テレビを触って、youtubeのように巻き戻ししようとするし。 五十嵐先生が指摘されていた判断責任ミス待ち問題が解消された世界。AIが判断も責任も担うようになった将来は人間の思考力・判断力はどうなっているのだろう?AIに委ね過ぎて、自分で思考しなくなるのではないかと恐ろしい。


吉村 健佑先生「公開データを基に、専門家と国民と行政か議論するのが当たり前の社会に」

まず厚労省に行ってみてわかったことは、レセプト分析し可視化すると言うと現場の医師と医療機関が非常に警戒することです。自分たちの医療が適切ではないかと誤解され批判されるのではないか、監視の対象になるのではないかといった懸念があったようです。しかし、医療現場で実際に行われていることを共有しない限りは、 部分的な情報に基づいて解決策を打つことになるため、見当はずれの政策になりかねません。

→この内容は2つの点で興味深かったです。
1)部分的な情報に基づいて解決策を打つことになると、見当はずれの政策になりかねない
これは、その通りで、全数調査より、サンプリング調査のほうが精度が低いことは間違いないですね。全数調査でサンプリング調査と比較してどの程度精度が上がり、それに要するコストに見合うかも重要な論点かと思いました。レセプトデータの場合には、すでにある程度構造化されたデータであり、報告も月1回提出が義務づけられていることを考えると、この場合にはコストはそんなにない(すでにデータは蓄積されている)と思います。全数調査で精度がどれだけ上がるかは、分からないですね。分からないので、全数調査で分析結果をオープンにして議論するという判断なのかなと思いました。

2)当たり前だが、人は立場によって物の見方が異なる
この場合、現場の医師のほとんどは、自分の診療が生活圏であり、考える範囲なので、レセプトの分析と言われると監視されると思うのは自然なことで、原先生が意図する「全情報を公開して分析することでより有効な解決策を今後の医療のために打ち出す」というビッグピクチャーを汲み取るのは、やはり立場が異なるので難しいのではないかと思いました。そういった現場の状況を踏まえてでも、日本の医療全体を考えて前にプロジェクトを進めていく原先生の行動力が素晴らしいと感じました。



また、読んでいて、そして今ブログとして書き記す段階で感じたことは、「自分の伝えたいエッセンスのみを切り出した「ワンフレーズ」を盛り込み、それを複数回繰り返すこと。そのワンフレーズは、聞き慣れた言葉ではなく自分が作り出した造語であること(例えば、五十嵐先生の「医療の民主化」という表現のように)」が読み手の印象に残るためには必要だということ。もちろん、その造語は、読み手が納得するような、主張をエッセンスとして体現したワンフレーズであることが大前提です。
ワンフレーズで切り出せるということは、それだけ伝えたい内容を日頃から考えていて抽象化していることの証であり、読者はその背景も含めて、この書き手はすごいなと印象に残るのだと思います。

政治家の演説やプレゼンなどでも、キーワードを繰り返して印象づけることはよく行われていますね。言われてみれば当たり前のことに気付かされました。


ここでは書ききれませんでしたが、30人の医師のインタビューはどれも読み応えがあり、未来の医療を考えるキッカケとしては十分すぎるほどだと思いますので、ぜひ手にとって読んでみてください。

30人の医師のインタビューの前の章で、加藤先生が「医療とテクノロジーの現状と展望」という形で、ヘルスケア分野の様々な企業の取り組み(ざっと50企業くらいは紹介されています)を包括的にまとめていらっしゃいます。
正直、ここを読むだけでも、自分でしらみつぶしにベンチャー企業をリサーチするよりはるかに効率的だと思いますので、ヘルスケア分野に携わっているコンサル会社や投資家の方々は一読する価値があると思いました。