医師としてのキャリアに迷う人たちへ
医学部生や医師から、将来のキャリアに関して相談されることが増えてきたので、自分なりにまとめました。
自分が起業したこともあり、自分に相談する方は、臨床医として大成するというよりかは、臨床医としてのみ働き続けることに疑問を感じている方が多いので、そのような方向けの記事になっています。
なお、正統派のレールで医師として研鑽を積んでいる方を非難するものではありません。
あと、超長文です。。読み終えるのに、5-10分ほどかかります。
0)自分がどんな生き方をしたら最も幸せなのか?について、まっさらな条件で考える
どのタイミングでも、自分の将来のキャリアに疑問を持つのは何も悪いことではない。医師も例外ではない。
ここでいう、「どのタイミングでも」とは、文字通り、どのタイミングでもだ。
学生だろうが、30代、40代、50代だろうが関係ない。子供がいて生計を立てないといけないとか、病院ですでに重要な役職についているとかも関係ない。
医学部に入ったから医師にならなければならないとか、医師を今やっているから、これから先もずっと勤務医を続けなければいけないとかは、本来ない。医師を続けなればならないと思ってしまう人が多いと思うが、その前提は絶対的なものではない。なので、そもそも医師を続けていくことは自分が人生で最もやりたいことなのか?という、もっと広い枠組みで、自由に将来を考えてよい。
ちなみに、医師になるには医学部に入る必要があり、他の職業と異なり、日本では高校卒業時点で進路を確定させる必要がある。そもそも、今の日本の教育システム(各職業の体験授業はなく、主要教科を詰め込みする教育)で、18歳の時点で将来を確定させるような意思決定をしなければいけない現行制度そのものに問題があると思うが、本題から逸れるので割愛。
もちろん、
・親や周囲の期待に背くことになり後ろめたい
・周りは医師になることに何の迷いもなさそうだから、自分だけレールを外れるようで怖い。後ろ指をさされるのではないか
・医局という後ろ盾がなくなり、レールから外れて放り出されたときに、自分1人で動かなくてはいけない
など、不安は上げればキリがない。
もしかしたら、長時間労働で、帰宅したら寝るだけの生活を繰り返していて、そもそも将来に関して考える時間も脳内のワーキングメモリもないかもしれない。あるいは、考えるのに、まとまった時間を取れないので、「自分、このまま論文書いて大学院終わって、また臨床に戻っての道になるんだろうな。このままでいいのかなぁ…」と、ただ漠然と感じて終わっているかもしれない。
ただ、そうだとしても、1年のうちのわずかな有給期間を利用して、数時間でもよいので1人の時間を確保して、自分がどんな生き方をしたら最も幸せなのか?について、ありとあらゆるしがらみを抜きにした状態を想定して(これが難しいが)、まずは考えてみるとよい。考えるだけならタダである。
ちなみに、このように書くと「仕事で忙しくて…」と、すぐ「忙しい」という言葉を使う人がいるが、「忙しい」かどうかは全て優先度の問題であって、正確には「この案件に割く優先度は低いです」が正しい。厳しい言い方になるが「忙しい」という言葉を発した時点で、考えることを後回しにして思考停止してしまっている。自分の将来設計は、目には見えないかもしれないが優先度はかなり高いはずだ。なので、意識的に優先度をあげて、時間を確保した方がよい。なんなら、同期との旅行や飲み会をキャンセルしてでも、考える価値は十二分にある。
考えた結果、例えば、
「手術している時がアドレナリンが出まくって、時間も忘れてしまうので今後も病院でバリバリ手術していきたい!」と思ったならば、外科医の道を極めるのが幸せだし、「臨床医としての仕事は好きだけれども、労働環境が過酷すぎてこのままでは身が持たない」という結論に達したならば、労働環境の良い病院を探して転職するという道もある。
そもそも臨床医は向いていないかもしれないとか、臨床以外にやりたいことがある、などの結論に達したならば、医師という枠組みを取っ払って自分が何をしているのが好きかを考えるとよい。
そして、考えた結果、医師としての王道のレールを外れて何か新しいことを始めたいと思った時に、あらかじめ知っておいた方がよいことを記載する。
1)周囲の冷ややかな反応をあらかじめ知識として身につけておく
学生の時から感じていたが、人は自分の理解の範疇を超えた行動をする人が出てきた場合に「あの人は、何かやっているよねぇ…」と、「何か」という言葉に全てを内包して、それ以上は取り合わないというスタンスを取る(以下、このような人達をマジョリティと呼ぶ)。
自分の感覚値としては、97-98%の人は上記の反応をとり、残りの2, 3%が「へぇ〜。面白そうな取り組みしているね。詳しく聞かせて」と興味を示す。
なので、「何か新しいことをやり始めた時の周囲の反応はそういうものだという事実を、前もって知識として知っておく」ことはとても重要だ。あらかじめ知っているのと知っていないのとでは、マジョリティの反応に直面した時の心の余裕が異なってくる。
あと、人の価値観は所属している環境による影響が大きく、自分の物の見方でしか物事を判断できないし、その物の見方を変えさせるのはとても難しい。という事実を知っておくことも重要である。
ここで、医学部および医師のコミュニティとしての特性を述べておく。
あまり他の価値観に触れ合う機会がないということは、自分のキャリアについて疑問に思う機会も少ない。そして、医師になったらある程度レールは敷かれているので、そのレールに疑問を感じない場合には、その人の人生はとても幸せである。これは人生の幸せに対する1つの解ですらある。そして医療はそういった大多数の医師の努力により支えられている。
しかし、何かのキッカケで、少しでも将来のキャリアに疑問を感じてしまった人にとっては、周りのマジョリティの価値観がかなり凝り固まっているので、相談相手がなかなか見つからず1人で抱え込んで悶々とするという点で不幸である。
少し脱線してしまったが、というわけで、マジョリティが自分の新しい活動に興味を示さなかったり取り合わなかったりするのは当然の反応である。その反応に、良いも悪いもないので、「あの人達は、自分の取り組みを分かっていない」とか「これだから保守派は…」などと愚痴ったり非難したりする必要もない。価値観が違うだけなのだから。
例えば、ポリクリの時に、ほぼ必ず「きみ、部活は?」と先生に聞かれる。上の先生にとって、世代の異なる学生との接点は「部活」なのだ。この時、部活に入っていなかった学生は肩身を狭くして「入ってないです」と答える。そして、それを聞いた先生は「あ、そうなの。ふーん」で会話終了となるケースが多い。そして、部活をしている生徒との話に花を咲かせる。
また、同期の結婚式に呼ばれた時に、周りのほとんどの話題が、同期の就職先、勤務先の病院でのスタッフの話であり、話の輪に入れず肩身の狭い思いをすることもあるだろう。
ただ、これらの例は全て、今所属しているコミュニティが違うこと、そして価値観が違うというだけの話なので、そのことを分かっていれば、話の輪に入っていけないとしても何も自分を卑屈に感じずに済む。
肩身が狭く感じるのはしょうがない(その時点ではコミュニティの中でマイノリティなので、どうしてもそう感じてしまうこともあるだろう)が、それで、自分自身を卑屈にさせないことが重要である。気まずい時間が一生続くわけではないのだ。あと、価値観は時代とともに変化していく。
実際に、自分が研修医を終えて起業して、今のWEB問診サービスを飛び込み営業した際に
「そんなことやっていないで、まずはしっかり専門医を取りなよ。臨床医として一人前にならないと、信憑性もないよ」
と、開業医の先生に言われたことがあった。
新しいことをやり始めると、大なり小なり、上記のような反応が返ってくると思うが、いちいち気にして不安になっていてもしょうがない。正直、自分のやりたい内容が明確に決まっていたら、いちいち周りの反応を気にしている時間はない。
「この人の価値観では、自分の取り組みはこんな感じにうつるんだ」くらいに受け止めて、自分の心の平穏を保ちつつ進み続けることが重要である。自分の心の平穏を保つためには、「自分はこの信念を持って、今の活動をやっているんだ」と自己暗示するとか、活動を理解してくれそうな仲間と定期的に話すとかなんでもよい。
2)自分の居心地の良いであろうコミュニティを見つけて参加する
これは、人間の特性上、ほぼ必ずこういう経過をたどるので書き記すこと自体不要かもしれないが、
↓
②今まで所属していたコミュニティでは居心地悪くなり、自然と疎遠になる
↓
③新しいことをやっている人達のコミュニティに入っていく or 自分で立ち上げる
時間の差はあれ、ほぼ必ずこの経過をたどる。
群れの中で安定した状態から離れると、1人だと不安になるので、はぐれたもの同士で新たな群れを形成するというのは、人間だけではなく動物全体の特性かもしれない。なので、もし自分の医師としての進路にもやもやと悩んでいる場合には、とりあえず自分が興味のありそうなセミナーに参加してみるとよい。
そして、セミナーの懇親会で参加者に声をかけてみて、意気投合したらそのコミュニティにどっぷり浸かっていくのも1つの手だ。環境がその人の価値観を形作るので、まずは居心地の良さそうな新しいコミュニティへの接点の時間を増やす(メリット・デメリットを左脳的に考えずに、とりあえず曝露時間を増やす)のもよい。
幸い、最近は、そういったいわゆる王道から外れた医師や、そのような医療従事者をサポートするコミュニティ(デジタルヘルスラボや、IHL、SHIPなど)が増えてきている。
医師同士の相談サービス「Antaa」が運営しているAntaa アカデミアでは、診療科横断的な疾患の勉強や、医学論文の読み方、医学系出版の方法、財務など、医師が主体となって発表する勉強会の様子を、無料でFacebookライブで配信しているため、家にいながらにして他の医師の活動の様子を垣間見ることができる。
インターネットが普及して以降、つながり自体がフラットになり、コミュニティ参加の物理的・心理的限界費用は限りなく0に近くなってきている。
従来であれば、勤務医・開業医・研究医・医系技官くらいしか選択肢はなかったかもしれないが、最近はそれだけにとどまらず、
「医師×起業家」「医師×youtuber」「医師×ブロックチェーン」「医師×コンサルタント」「医師×エンジニア」「医師×医学教育」「医師×作家」「医師×治験開発責任者」「医師×投資家」など、もう1つ、2つと肩書きを持つ方が増えてきており、医師の生態系は多様化している。
他にも、医学部を卒業後、医師にならずにコンサルタントになった人や、途中で医師をやめて専業主婦になった人もいる。そして、そういった方々は多様な価値観を受け入れてくれやすいので、新参者が来ても快く受け入れてくれるだろう。そのような人たちにキャリアパスについて、個別にランチがてら相談するのもよい。自分も学生の時は、いわゆる王道のコースを歩んでいない先輩医師によくキャリアパスについて相談していた。
もちろん、上記のようなコミュニティに飛び込むこと自体が、勇気がいると感じる人もいるだろう。そのような人は、自分の今までの勤務仲間を振り返って(学生時代から今の職場まで)、新しい活動を始めた医師に連絡を取ってみるとよい。少なくとも2,3人はいるはずだ。
ここで相談する相手は、自分と同じような既存の王道レールにいる人ではなく、新しい活動をすでに始めている人である。あまり1人で悶々と考えても、自分の今までの経験の中でしか考えられずに煮詰まってしまうので、すでに新しい活動をしている人に打ち明けて相談するのが手っ取り早い。何らかの気づきを与えてくれたり、人を紹介してくれたりするはずだ。
今までは、新しい活動には全然興味なく、そういった人とは疎遠だったので、相談するのは気がひけると思ってしまうかもしれない。でも、大丈夫である。どれだけ今までは疎遠だったとしても、「久しぶり。実は最近、今の働き方に疑問を感じてて、よかったら飲みに行かない?」と、少しの勇気を持って誘ってみると、快諾してくれるはずだ。人間、頼られると嬉しいし、ましてや自分と同じく新しい活動を始めようとしている人なら、なおさら力になりたいと思うだろう。
高校時代に全然話さなかったのに、10年ぶりの同窓会で話し始めたら、意外と意気投合して大人になってから仲良くなったという経験は誰しもあるのではないだろうか?友達は、自分のライフステージが変わるにつれて、どんどん変わるものだ。なので、自分が新しいライフステージに踏み込む時には、新しい友達を作るくらいの感じで、今までに接点があってコンタクト取れそうな新しい活動をしている人に連絡するとよい。
また、今まで所属していたコミュニティを離れる時は、今のコミュニティが絶対的なものだったから、もう自分の後ろ盾は何もなくなるのではないか?と、とても不安に駆られるかもしれない。しかしよくよく考えると、例えば今まで所属していたコミュニティが医局だったとして、自分がそのコミュニティで仲良く話す人達は10数人程度のものだ。医局に限らず、コミュニティとはそういうものである。
一旦既存のコミュニティを離れたとしても、先ほどのような新しいコミュニティに入れば、10数人程度の意気投合する人達はすぐに見つかるので、実はそこまで不安になる必要はない。実際に飛び出してみると、関連病院に出向して新しいコミュニティに飛び込んでいくくらいの感覚とハードルである。
なので、もし1人の状態が不安だと感じるなら、積極的に新しいコミュニティに足を運んで心が安定した状態を作り、自分の活動に専念する方が望ましい。
あと、医師は専門性が高い職業で、医師一筋で頑張ってきた人が多いと思う。さらに、子供がすでにいたり、病院で重要な役職についていたりと、ライフステージが上がるにつれて足枷が増えてしまっている人もいるだろう。
その場合は、まずは、今の生活は維持したまま、空いた時間で趣味程度に何か新しい活動を始めてみる(スポーツでも、投資でも、ブログでも、プラモデルでもなんでも)のもよい。
何か新しいことやってみたいけど何も見つからないという人は、幼少期を振り返ってハマっていたものを、またやり始めるというのもアリだ。
趣味が高じて本業になるというように、趣味で始めていたら玄人並みに詳しくなり、医師×〇〇という第二の柱がいつの間にか出ているかもしれない。
自分の幼少期を振り返って、「そういえばプラモデル作るのハマっていたな。またやってみたいな」と思ったなら、プラモデルを空いた時間にやってもいいと思う。そのうちに、「医師×プラモデルマニア」みたいなポジションを確立しているかもしれない。「医師×プラモデル」なんて、早々いないと思うので、市場価値はずいぶん高くなっているはずだ。
上記は、あえて突拍子もない例を出したが、ビジネス的に考えれば、例えば、診療のスキマ時間に、twitterやPodcastで一般人向けに今までの知識を切り売りして、フォロワーを増やすのもよいだろう(例:救急医が熱中症や鼻血の応急処置について分かりやすく解説するなど)。すでに培った知識を元にしているので、時間的コストが低く、かつ専門的知識という点で参入障壁も高く、診療時間以外にも広く自分の知識を共有でき、フォロワーにも喜ばれる。今のライフスタイルを維持しながらも、手軽に始められるはずだ。
そして、医師以外の第ニの柱があると、医師側がきつい時には、その第ニの柱が心の拠り所となる。別に第ニの柱が収益を生むものでなくてもよいので、何かしらハマるものを見つけられればラッキーだと思う。
3)結果を出せば、人は掌を返したように礼賛する
ここで定義する結果とは、開業や起業だったらしっかり売上を出す、個人だったら新しく始めた活動(コンサルでも、作家でも、youtuberでもなんでも)で他人から認められるほどの一人前になるなどである。自分がやりたい活動が決まったら、ある一定程度の成果を出すまで他人の声など気にせず頑張ればよい。
結果を出さなければ人はすぐに離れていくし、逆に結果を出せば、人は掌を返したように寄ってきてチヤホヤするので、シビアだけどとてもわかりやすい。
ちなみに、新しい活動を始めると、みんなSNSで活動報告を始めるので、「あいつは、医局を飛び出して楽しそうにやっているよな」とか「今の若い人は自由に意思決定できていいよな」などと、今の働き方に疑問を感じながらも動けていない人にとっては羨ましくうつるかもしれない。
ただ、どの道を選んだとしても、すぐにうまくいくわけはなく、険しい。さらに、皆うまくいった時ばかりをSNSで拡散するので、傍からはすんなりうまくいっているように見えるが、その裏には何十倍ものとてつもない苦労がある。そして、皆が皆、成功するわけではなく、新しい活動を始めたが、うまくいかずにフェイドアウトする人もたくさんいる。そしてこの場合は、ほとんど誰にも知られることなくひっそりと市場から退場していく。なので、どの道を選んでも苦労は伴う。
ただ、どうせ同じ苦労を伴うなら、自分が好きなことで苦労した方が人生楽しいはずだ。
ある一定程度の成果を出した頃には、「あの人、何かやってるよね」から、「あの人、何か「すごい」ことやってるよね」に昇華しているだろう。
結局、一度きりの人生、自分の人生を生きるのは、他の誰でもない「自分」なのだ。
少し、とりとめない感じになってしまったが、
もし医師としての、いわゆる王道のレールを外れると決めた場合には
1)周囲の冷ややかな反応をあらかじめ知識として身につけておく。
2)自分の居心地のよい新しいコミュニティを見つけて積極的に参加する
3)結果を出せば、いずれ人は認めてくれるので、結果を出すまで頑張る
を意識してみてはいかがだろうか?1アドバイスとして記しました。
一番大切なのは、自分がどんな生き方をしたら最も幸せなのか?に対する答えを見つけ、その答えに従って行動することだと思います。しがらみは多々あるかもしれないですが、1人でも多くの医師が幸せな生き方ができるよう、応援しています。
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